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樹木医日誌 令和3年 大内山の一里塚(クロマツ)

 1月27日 大内山の一里塚
     クロマツの診断依頼があった。 診断依頼といっても、写真を受け取った時点で枯死していると判るほどの葉の変色であった。
しかし、まぁ、それにしても何故枯れたのか? 原因を探ることも樹木医の仕事である。

 ◆ 枯死原因は何か?
少し写真が見えにくいが、葉がすでに変色していることがわかる。

葉の変色したタイミングや樹脂の状態から、マツ材線虫病が疑われた。
樹脂は停止していた。
 ◆ 本当にマツ材線虫病だけが原因か?
枝はフラッキングし、しかも近年枯れたものではない。
全体の1/3が 昨年までにすでに枯死、またはほとんど枯死していた様子であった。
材辺の採取。
念のため、マツの根も採取する。
@枯れた枝、A根、B幹(2か所)の材を採取した。
これは線虫検査を行うためである。

この枝が一つのカギだと思われた。
葉が残っているので完全に枯れたのは昨年だと考えられるが、それ以前にすでに衰弱が始まっていたと思われる部分。つまり、昨年の時点で完全に枯れていたわけではない。
 ◆ 検査結果
 いずれの材からもマツノザイセンチュウが検出された。
 しかし、昨年、すでに衰弱していたと思われる枝からの、マツノザイセンチュウの密度は、『0.7頭/g』であった。
 そして、マツノザイセンチュウ以外の線虫の密度は、『5.6頭/g』であった。
 つまり、マツノザイセンチュウの8倍の他種の線虫が存在していたということは、この枝はマツ材線虫病で枯死に至る前に、
 すでにゾウムシ、キクイムシの穿孔を受けていたものと考えられる。つまり、これは、通常の枯れではなく、すでに衰弱していたことを裏付けるひとつの証拠である。

 そして重要なことがもうひとつ。 
 実は、今回枯死したこのクロマツの周囲には、マツが存在しないのである。 ならばマツノマダラカミキリはどこから来た?
 このようなケースを単純に 樹木医が  『マツ材線虫病による枯死です』 と診断書に書いていいのだろうか?

 ◆ 診断書
 『今回の枯死の直接的な原因は、マツ材線虫病によるものです。 但し、当該マツはそれ以前に衰弱していたことが伺えます。
  その期間中に、各種キクイムシ類が飛来して穿孔していた様子が伺えます。 そして、そのような部分的な衰弱(この場合は、全体の1/3と考えられる)
  は、マツノマダラカミキリの産卵活動・方向性ある飛来を誘引してしまい、線虫病に感染するに至った可能性が非常に高いと考えられます。』

 枯死原因は、線虫病なのだが、それい至るまでの経緯についても触れて診断書を提出した。
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